『実験的金融政策の効果と限界』(早川英男氏)

Pocket

日本証券経済研究所のサイトに

2017年11月9日
『実験的金融政策の効果と限界 -QQEからYCCへ-』
富士通総研・経済研究所 エグゼクティブ・フェロー 早川英男氏

の講演内容がアップされました。
ビデオ、講演資料等があり勉強になると思いますのでご紹介します。

講演内容の一部抜粋

日銀総裁、副総裁、審議委員は、国会の承認を得て任命されるわけですが、直接国民から選ばれているわけではありません。そのような人たちが「兆円」単位の国民負担につながるような政策を行うことは、「代表なくして課税なし」という民主主義の根本原則に抵触する疑いがあるのではないでしょうか。
リフレ派は、日本経済の長期低迷はデフレのせいであり、デフレが終われば成長率が高まって、放っておいても財政はよくなると言っていました。しかし、そのような様子は見られません。

安倍政権誕生後の平均成長率は年率1.4%で、民主党政権期の1.6%を下回っているのが実情です。なお、今の景気拡張期は、今月、長さにおいてイザナギ景気(1965年11月~70年7月)を超えました。これまで最長の景気拡張期は、小泉政権期の2002年2月~07年10月ですが、その時の平均成長率は1.7%でした。それと比べて、今が目立って低いとまでは言えませんが、成長率が高まっているような状況ではありません。
アベノミクスが始まる前から、雇用情勢は着実に改善し、失業率が2%台まで下がったことが挙げられます。

今の人手不足は、根本的にはアベノミクスの成果というより、むしろ、高齢化に伴い労働供給が減少した結果と言えます。
デフレからの脱却は、アベノミクスの成果というより、むしろ、低生産性、人手不足の結果として実現したと言えるのではないかと思います。
QQEは実験的なものですから、実際の経験から学ぶことが重要です。

しかし、実際には、これらの教訓とは全く正反対のことが行われてしまいました。元来、QQEは短期決戦の陣立てで行われたものですが、賃金が上がらなかったため、短期決戦のシナリオは崩壊しました。それにもかかわらず、その後も、当初の枠組みに執着し、無理な、強気の情報発信を繰り返したため、日銀は市場の信頼を失いました。その結果、昨年9月、「総括的検証」が行われることになりました。
日銀は、大胆な金融緩和によってデフレ・マインドを転換すると言いますが、QQEを行った結果、金融市場と実物経済の非対称性が明らかになりました。先ほど御説明しましたように、資産価格はQQEにかなりはっきりと反応しています。
それに対して、実物経済の反応は非常に鈍いものにとどまっています。
日本は、過去20年余りの間に何度も、ある種の流動性危機を経験しています。最もひどかったのは、1997、8年ですが、それ以降では、2002、3年とリーマン・ショックの直後にも、流動性危機と言われる事態が生じました。
流動性危機が起こりますと、どれほど会社の経営内容がよくても、会社が潰れてしまいます。
今や、自然人の寿命は80年を超えようとしています。他方、法人の寿命は80年もありません。私どもの親会社の富士通は今年80周年を迎え、ようやく自然人の寿命に到達しました。しかし、平均的に考えますと、企業の寿命は自然人の寿命より短いわけです。にもかかわらず、終身雇用を保証するというのは論理的におかしいと言わざるをえません。
私は、マネタリー・ベースの概念が不適切なのではないかと思っています。

リフレ派の人たちの中には、日銀が国債を持てば、国が支払った金利は日銀納付金として国に返ってくるので、財政負担が減るといった議論をする人がいます。しかし、これは、基本的には、マネタリー・ベース=通貨発行益と考える点で初歩的な間違いです。ヘリコプター・マネーの議論も本質的には同じであると言えます。
マイナス金利政策について

イールドが潰れて利ざやが悪化しますと、金融機関経営の安定を損なうという問題があります。また、期間の長いところまで金利が潰れてしまいますと、年金制度の持続性への不安が生じ、それが消費者心理に悪影響を及ぼす可能性もあります。加えて、サプライズを狙ったことによる代償も大きかったと思います。理解できないような政策が突然行われたことで、高齢者を中心に消費者心理を悪化させた他、金融機関からも極めて強い反発が出てきました。
QQEからの「出口」について

おそらく日銀は、最初からこの問題を意識していたと思います。しかし、日銀は、出口の議論を時期尚早として、これまで封印してきました。私も、QQEを始めた直後に出口の議論を始めると、金融緩和効果を減殺してしまいますので、当初は議論しないですますのもしようがないと思っていました。しかし、QQE開始後、4年半以上が経っても黙っているのは、幾ら何でもおかしいと思います。Fedは、テーパリングの開始に先立って、スタッフ論文の形ではありますが、Fedの損失について試算結果を明らかにしています。日銀も、損失の試算を公表すべきです。
日銀がETFを買っているのは、リスクプレミアムの拡大を抑制するためです。現在の株価の上がり方等を踏まえますと、リスクプレミアムを抑制する必要はほとんどありませんので、リスクプレミアムの抑制という理屈は崩壊しているように思います。



シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする