今回は、下記の書籍を一部引用します。
勉強になればと思います。
『変革迫られる年金運用 マイナス金利の衝撃』
(年金資産運用研究会=編、日本経済新聞出版社)
未曾有の低金利時代に求められる資産運用とは。
国内債券を軸とした従来型ポートフォリオは限界を迎え、新しい運用モデルの構築が求められている。
年金基金、運用会社、コンサルなどのプレイヤーはマイナス金利の衝撃をいかに乗り越えるのか金融・証券市場の最先端の動きを追う。
{引用部分}
第4章
マイナス金利環境下の年金基金の取り組み
-年金運用の現状認識と未来予想図
野村證券株式会社 荻島誠治さん
(マイナス金利の影響)
長期の時間軸でみたときの一番の影響は、運用利回りの低下である。これはネガティブな効果であり、最も悩ましい問題である。年金運用で安定的に2%以上を稼ぐのは大変難しい環境になってきている。
(代表的な年金基金の受託責任者の)意見も十人十色であったのも、年金運用に正解がないことを物語っている。共通点があるとすれば、投資目標と投資信念を明確にしている点である。投資目標は、リターン目標だけでなく、リスク目標や各種の制約条件を明確にしている必要がある。投資信念には、①アクティブ運用で超過リターンを得られると信じるのかとか、②オルタナティブ投資で流動性プレミアムを得られると信じるのかとか、③そもそも株式投資にリスクプレミアムがあると信じるのかとか、④その時々で割安な資産クラスがあると信じるのかとか、等がある。投資信念はどちらが正しいというものではない。どのような価値観を持って運用管理を行うのかを明確にして、母体企業をはじめとした様々な関係者とその信念を共有しておくことが大事である。
個人の裁量で闇雲に株式や債券に投資しても国民全員が老後の生活資金を安定して稼ぐのは難しい時代である。だからこそ、公的年金や企業年金への期待は大きい。特に年金運用で少しでも運用利回りを高めることが出来れば国民や企業の資金負担が和らぐことにもなる。
過去のリターンが素晴らしくても、将来のリターンも同じように素晴らしいという保証はない。リスクが存在しているために投資家は将来のリターンを正確に予想することはできない。特にマイナス金利の環境下で債券リターンを先食いした状況では、将来の債券リターンは過去よりも低下する可能性が高いと言えよう。
今後5年間及び10年間の年率平均の期待リターンとリスクを推計しているが、今年の推計値については驚くべきことがいくつか読み取れる。第1に国内債券の期待リターンが今後5年でも今後10年でもマイナスであることだ。
第2にヘッジ付の外国債券(国債型)が今後5年ではマイナスであることだ。ヘッジ無しの外国債券(国債型)でも今後5年で1.1%の期待リターンしかない。
第3に国内株式や外国株式の期待リターンは5%程度しかない点だ。エクイティ・リスクプレミアムがクレジット・リスクプレミアムと似たような水準になってきている。リスクは株式のほうが高いことを考えると、株式投資についても時価総額加重型のTOPIXやMSCIに投資するのではなく、スマートベータ(ファクター投資)、エンゲージメント投資(ESG投資、集中投資)、株式ロングショートなど従来とは違う運用戦略をコアに位置付けることも検討に値しよう。
(上記解説の出所)
「フォワードルッキング(2016年度版)<アセット・アロケーション策定のための基礎データ>」野村證券フィデューシャリー・サービス研究センター、2016年8月
誰からも異論のないメッセージとして、マイナス金利によって中長期的に現状の運用目標である運用利回りを得ることは難しくなるということだ。運用利回りを得られないと言っていない。安易に獲得できなくなったということである。金利低下の局面では年金運用のコア部分は国内債券にしておけばよかったから楽であった。今後は予定利率よりも3%程度も低い水準しか国内債券の期待リターンがないのである。この3%の差をどのような資産で穴埋めするのだろうか?しかも単年度で運用目標を達成したいところである。百歩譲って5年間の平均で予定利率を上回っていてほしいと誰もが願う。
今回、冒頭の書籍の中からほんの一部を引用し、企業年金の運用等に関わる実務家がどのように戦略を考えていっているのかについて触れてみました。
とりあえず一言だけ。
5%や6%、7%とかで平気で運用できると言っているFPや保険代理店は、公的年金や企業年金運用担当者らにアドバイスをしてあげてください。
ただし!!
決して投資初心者らに話している内容は言わないほうがいいですよ。