毎日新聞の社説より

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2018年9月13日(木)毎日新聞社説より

「ジャパン・イズ・バック(日本経済が復活した)」「バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは『買い』だ)」--。

 政権復帰から9カ月後の2013年9月、安倍晋三首相はニューヨーク証券取引所で自らの経済政策を誇らしげに売り込んだ。

 それから5年。安倍政治の継続か否かを問うのが今回の自民党総裁選だ。まずなされるべきは、アベノミクスの総点検である。安倍氏に挑戦する石破茂氏には、将来に回ったツケも含め、「最終的な勘定」の論争を挑んでもらいたい。

 12年末、安倍政権は「デフレからの脱却」を看板に発足した。政権奪還を果たした衆院選ではそれまでの政策を糾弾。「民主党政権や日銀はデフレから脱却できたのか、円高を是正できたのか」と問い詰めた。

 では、「結果が全て」と言う安倍氏に聞きたい。「2年程度で」達成される約束だった物価上昇率2%が、なぜ今も視野に入らないのか。
なお続く異次元緩和

 歴史的にも世界的にも異例の大規模金融緩和を導入し5年半も経過しているのである。

 首相は「デフレではない状態になった」と答えるかもしれない。しかし、劇薬である異次元緩和になお依存している。

 リーマン・ショックの震源地、米国では、金融政策の正常化が進み、15年末以来、7回も利上げを実施した。日本はいまだマイナス金利だ。この現実をどう説明するのか。

 安倍首相は、政権復帰前と現在を比べ、改善した数字を使って実績を誇張する。例えば名目国内総生産(GDP)だ。「58兆円増加した」というが、基準改定効果などで30兆円超もかさ上げされたものである。

 もちろん訪日外国人の急増に伴う需要増など、好転した部分もある。しかしながら、成果を得るのにかけた総コストを吟味しなければ、政策の成否の判断はできない。

 問題は、アベノミクスのコスト、そして最終的な勘定が、現時点の我々にはわからないことだ。

 例えるとこういう話になろう。レストランで客をもてなす。目を引く料理を次々と注文し、異次元の量と質の酒を振る舞う。

 客は驚き、良い気分になっていく。だが、異次元の額の請求書が来た時、招待主はいないかもしれない。

 「請求書」とは、異次元緩和策と先進国一悪い財政が組み合わさって生じ得る経済危機である。「客」とは他ならぬ国民のことだ。

 アベノミクス第一の矢を担う日銀は、過去に例のない勢いで国債(国の借金)を買ってきた。その結果、国債価格は大幅に上昇し(長期金利は大幅に低下し)、今では国が借金するほどもうかるという異常さが常態化している。
膨らみ続けるリスク

 国のもうけだから国民の得だと感じそうだが、長くは続かない。どこかで逆方向に動き出す。

 急増する利払いに国が対応する力を投資家に疑われた時、国債は暴落するだろう。待ち受けるのはギリシャであったような経済の大混乱だ。

 5年半前に異次元緩和が始まった時点でこうしたリスクは指摘されていた。政策の長期化により、リスクは膨らむ一方である。

 いつかはわからないが、「勘定」に注目が集まるのは恐らく安倍政権後となろう。それだけに石破氏は、首相のあいまいな返答を許さない追及を今しておく必要がある。

 少なくとも、今後の財政健全化への具体的考えを明らかにしてもらわねばならない。

 安倍氏は政権交代後、税収が24兆円増加したと胸を張る。しかしこれは国と地方を合わせた税収で、12年度と17年度を比較した国の税収の差額は15兆円に満たない。しかも、そのうち約7兆円は、この間税率が引き上げられた消費税分だ。

 10%への消費増税は2度見送った末、来年実施する際には、使途を本来の財政健全化から教育や子育て支援に付け替えると宣伝している。

 子どもへの投資に映るが、結局、その対価を払わされるのは将来の世代なのだ。「人生100年時代」と新たなテーマを持ち出す前に、団塊の世代が全て後期高齢者となることで急膨張が懸念される医療費をどうするのか、差し迫った問題への答えを示してほしい。

 「1強」となって久しい与党の党首選である。国民の将来負担も含め、責任ある議論を望む。


おそらく多くの人がわかっています。
いまの政治家や行政に関わっている人たちは
なにかが起こっても誰かのせいにすればいい
と思っているということを。
それが天災でも人災でも。



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